2008年5月30日金曜日

044:人のとしによりてふるまふべき次第、

一、人のとし(歳)によりてふるまふべき次第、廿(二十)ばかりまでは、何事も人のするほどのげいのう(芸能)をたしなむべし。三十より、四十・五十までは、君をまぼり(守り)、たみをはごくみ(民を育み)、身を納(修め)、ことわりを心得て、じんぎ(仁義)をたゞしくして、内には五戒をたもち、せいたう(政道)をむねとすべし。せいたう(政道)は、天下をおさむる人も、又婦夫あらん人も、ぎ(義)のたゞしからんはかはるべからず。さて、六十にならば、何事もうちすてゝ、一ぺん(一遍)に後生一大事をねがふて、念仏すべし。其としにいたりては、子がうせ、子孫をたやすとも、うき世に心をかへさず、それいよ/\道のすゝめとして、我は此(この)世になき物とおもひきり給ふべし。親をおもひ子を思ふとて、無常の風にひとたびさそわれし人、又やこの世にかへりけん。おそろしき哉や、地獄のくるしみ、今生の夢みる程の事だにもつきず。まして地獄におちて大苦悩をうけて、なんこう(何劫)と申事もなく、かなしからんは、いかばかりぞ。たくはえ(貯え)も後生のためにはありがたし。

極楽寺殿御消息 北条重時

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