2008年5月30日金曜日

041:人の心をもつべく事、

一、人の心をもつべき事、ある人、たゞ人の用を申にいたむことなし。たから(宝)をこはるゝにはいたまず(痛まず)。所領を人のほしがるにとらせたり。其時此事上へきこえて(聞えて)、彼人をめして心を尋らるゝに、先世にて人をこそ申つらめとおもひ候程に、それを返すと心得ていたみなし。ざいほう(財宝)さのごとく、所領とらする事、昔をおもふ(思ふ)にたれ(誰)か親子ならずと申人候。又未来をおもふに、又誰か他人ならん。人は世にかなはずば、妻子とも親類ともいへ・ぼだい(菩提)心ををこさん(起さん)には、その身のためと申ほどに、我がたから(宝)をおしまず(惜まず)と申ければ、賢人なりとて、天下にめしいだされたてまつる事をも心にうれふる(憂ふる)事なし。心をばかやうにむけ給ふべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

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