2008年5月17日土曜日

013:道理の中にひが事あり。

一、道理の中にひが(僻)事あり。又ひが事のうちにだうり(道理)の候。これを能々(よくよく)心得給ふべし。道理の中のひが事と申(まうす)は、いかに我が身のだうり(道理)なればとて、さして我は生涯をうしなふ(失ふ)程の事はなく、人は是によりて、生涯をうしなふべきほどの事を、我が道理のまゝに申(モウス)。これを道理の中のひが事にて候也。又僻事(ひがごと)の中のだうり(道理)と申は、人の命をうしなふべき事をば、千万ひが事なれ共(ども)、それをあらはず(顕す)事なく、人をたすけ(助)給ふべし。是をひが事の中の道理と申也。かやうに心得て、世をも民(たみ)をもたすけ候へば、見る人きく人思ひつく(*思いを寄せる)事にて候。又たすけぬる人の喜はいかばかり候べき。もしよそにも、其人も、悦(ヨロコブ)ことなけれ共(ドモ)、神佛のいとおしみをなし、今生をもまぼり(守り)、後生もたすけ給ふなり。

極楽寺殿御消息 北条重時

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