2008年6月19日木曜日

056:わが妻子の物を申さん時は、

一、わが妻子の物を申さん時は、能々きゝ給ふべし。ひが(僻)事を申さば、女わらんべ(童)のならひ(習ひ)なりとおもふべし。又道理を申さん時は、いかにもかんじ(感じ)、これより後も、かやうに何事もきかせよといさめ( *励まし)給ふべし。女わらべ(童)なればとていやしむ(卑む)べからず。天照大神も女躰にておはします。又じんぐうくわうぐう(神功皇后)も、きさき(后)にてこそ、しんらこく(新羅国)をばせめ(攻)したがへられしか。又おさなき(幼き)とていやしむべからず。八まん(八幡 *応神天皇)(た)いない(胎内)より事を御はからひ(計ひ)あり。老たるによるべからず。又わかき(若き)によるべからず。心正直にて君をあがめ民をはぐゝむこそ、聖人とは申なれ。

極楽寺殿御消息 北条重時

現代語意訳
一(056)、自分の妻子が何か言った時は、よくよく聞いてやることだ。理屈に合わない事を言った時は、女子供のことだからと思って気にするな。また、しっかりと理にかなうことを言った時は、素直に同意して、これからも何でも話してくれよと励ましてやれ。女子供だといって軽視するな。天照大神は女神様であられるぞ。神功皇后は后であられながら、新羅を討伐されたぞ。また幼いからといって軽視するな。八幡大菩薩(応神天皇)は、(神功皇后の)胎内にあって、(三韓征伐の)事を計られたんだぞ。年寄りだから、若者だから、ということは評価の基準にならない。心が正直で、君子を尊敬し、民衆を第一に考える人物こそ、聖人と言うのだ。

055:そしとしておもふべき事、

一、そし(庶子)としておもふべき事、いかに我は親のもとよりゆづり得たりとも、ふち(扶持)する人なくば、たから(宝)にぬし(主)なきがごとし、たゞ惣領の恩とおもふべし。されば主とも、親とも、神佛とも、此人をおもふべし。たとひそし(庶子)の身にて君にみやつかふ(宮仕ふ)ともそう領(惣領)のき(気)を思ひ、われ(我)かくべち(各別)とおもふべからず。たゞ君と兄とをおなじうすべし。又惣領そし(庶子)のかなしみのあらんを、各別とてはなすべからず。ふるきことばにも六親不和にして三宝のかご(加護)なしといへり。

極楽寺殿御消息 北条重時

現代語訳の参照:Yahoo!知恵袋より

054:兄弟あまたありて、

一、兄弟あまた(数多)ありて、親のあと(跡)をはいぶん(配分)してもちたらんに、そうりやう(惣領)たる人はくばう(公方)をつとめ、そし(庶子)を心やすくあらすべし。またく恩とおもふべからず。我がれう(領)を扶持すべしと親も見給ひ、家をゆづり給ふうへは、一もん(一門)、しんるひ(親類)をはごくむ(育む)べし。さやう(左様)にあればとて、ぶ礼(無礼)にすべからず。然ば(しからば)又惣領をうやまひ、一大事の用にたつ事まめやかなるべし。佛神のはからいあり、又は前生のしゆくしう(宿習)あるらんと思ひて、よきをばよきにつけ、あしきをば我れ見すてゝはたれ(誰)か他人は扶持すべきと、ことにあはれみ(憐み)ふかゝる(深かる)べし。

極楽寺殿御消息 北条重時

現代語訳の参照:Yahoo!知恵袋より

2008年6月13日金曜日

053:人とみちにてうちあひたる時は、

一、人とみち(道)にてうちあひ(会ひ)たる時は、いそぎ弓をとりなおし、うやまわゞゆんで(弓手 *左側)にひきよけて礼をすべし。おなじ程の人ならば、弓もたずばいそぎもつべからず。うやまはゞをくる(送る)べし。いやしき人なり共、をくらば馬をむけて能々(よくよく)礼をすべし。かへらばすこし(少し)をくるべし。人より礼をすごして(過して)すべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

052:主親その外うやまふ人のうちをくりを申ては、

一、主(アルジ)親その外うやまふ(敬ふ)人のうちをくり(*見送り)を申ては、その人のうしろかげの見え給ふほどは、御前に候て奉公をゐたすごとくに、其方へむきて(向て)かしこまり、礼をいたすべし。其内にたちゐをもし(*立ち上がったりして)、弓などいる(射る)事(*弓の稽古などすること)はいまはしき事也。

極楽寺殿御消息 北条重時

051:佛神の御前をとおり、

一、佛神の御前をとおり、又は沙門にゆきあひ申候はん時は、馬よりおり(降り)給ふべし。人などうちつれ、又かつせん(合戦)の庭などにて、おりてあしき事あらば、かたあぶみ(鐙)をはづし(外し)、くら(鞍)にふして(伏して)、三礼いたすべし。よき程ならばおり給ふべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

050:人の妻をば心をよく/\見て、

一、人の妻をば心をよく/\見て、一人をさだむ(定む)べし。かりそめにも、其外に妻をさだめて、かたらふ事なかれ。ねたましきおもひつもりて(妬ましき思ひ積りて)、あさましくあるべし。されば其罪にひかれて、必(カナラズ)地獄にもおちぬべき也。聖(ひじり)などの一生不犯(フボン)なるはいかゞし給ふ。一人をおかす(犯す)だにも仏性をたつ(絶つ)事うたがひなし。ましていかばかり罪ふかゝるべき。六歳(斎)日十歳(斎)日(*仏教のウポーサタ・布薩にちなんだ精進潔斎日)に女にちかづく(近づく)べからず。此日子生ずれば、その身かたわ(片輪)にあるべし。又おや(親)のおんてき(怨敵)となる也。

極楽寺殿御消息 北条重時

※北条重時が「一夫一婦」を勧めた教訓として有名。重時本人には複数の妻がいた。

2008年6月7日土曜日

049:女の心をもつべき事、

一、女の心をもつべき事、むかしより今にいたるまで、女はやさしく、事ののびやかなるをほん(本)とせり。よく/\心得給ふべし。物をねたむ事、是を返々心せばき(狭き)とす。一河のながれをくみ、袖のふりあはせだにも多生のちぎり也。一夜のかたらひなりとも、先世のちぎりふかゝるべし。いまをはじめとおもふべからず。又えん(縁)つきなば、いかばかり契ふかかれ(深かれ)と申候とも、かなふべからず。来るも去も因果なりと心えてあるべし。されば心にはんゑんとて、せう/\おもはずなる事あれども、心ざまのよきにははぢ、あしきにははなるゝ也。物に心得やさしければ、男もはづかしくおもひ、いとをしみふかし。昔今ひきかけおほし、よそにて見るもきくもやさしきことに申候也。佛神もあはれみをたれ、今生後生めでたきなり。

極楽寺殿御消息 北条重時

現代語意訳
一、女性はどんな心を持てばよいのか。昔から今に至るまで、女性はやさしく、何につけても柔軟に生まれついている。この美点を忘れないようにしなさい。何かと妬み深いのは、心の狭いことだから気をつけなさい。男女の仲は、ひとつの河の流れを汲み、袖ふれあうも多生の縁というだろう。たとえこの世で一夜だけ男女の仲になる場合でも、前世からの深い因縁があるものだ。初めて会ったなどと思うものではない。また因縁が尽きてしまえば、どんなに一緒にいたいと願っても、別れることになるのだ。出会いも別れも、因果のなせる業だと心得ておきなさい。心は諸々の縁によってあるものだから、自分の思うようにならぬものだが、しかし心がきれいな女性のことは男も大切に尊重するし、心が汚い女からは男も自ずと離れてゆくものだ。女がやさしく接してやれば、男もその女への愛情が深くなる。昔も今もどこに縁があるかわからないが、その女性の評判を左右するのは、やさしさだよ。心やさしい女性はホトケサマ、神様もお守りくださるので、この世でもあの世でも幸せになるのだよ。