2008年8月6日水曜日

078:わが身たらはずとも、

一、わが身た(足)らはずとも、心せばきけしき(狭き気色)人に見すべからず。のちの世までもあし(悪し)かるべし。人に物をほどこ(施)せば、それほど諸天のあた(与)へ給ふ事成(ナリ)。さればとて事にす(過)ぐれたるべからず。よき程になるべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

077:神明は人をかゞみとせんとちかひ給ふ。

一、神明は人をかゞみ(鏡)とせんとちかひ(誓)給ふ。その事をせうらん(照覧)なきにてはなけれども、人の心をすぐ(直)にもたせんとの御ちかひあるによりて也。さればかの神国にありながら、心ゆるみなば、いかで神明の御心にかなふべき。人をかすめたる事あらばそれにまさる事必有(カナラズアル)也。其をぐち(愚痴)の者はしらぬにてこそ候へ。

極楽寺殿御消息 北条重時

076:人の心のよるべき事、

一、人の心のよるべき事、たとへをもつて申なり。おなじ夜なりとも、やみ(闇)の夜をよろこぶ事なし。月の光くまなきをば悦也。おなじかゞみ(鏡)なれ共、くもりたるをばみてん(曇りたるをば見てん)といふ人はなし。くもらざるをば、そゞろなる人もみたがる也。いやしきしづのめ(賤女)なれ共、あきらかなる日の光、くもらぬかゞみをしらぬ人はなし。神佛の御めぐみもよき人にはあるべし。いかにも人の心はすぐ(直)にてよかるべし。よく/\心得給ふべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

075:百性のかき内に、

一、百性(百姓)のかき(垣)内に、いさゝかなるくだ物(果物)にても、又つくりたる物など、さしたる事なからんにこう(乞う)べからず。此心をしられぬれば、こゝろざしに出(イデ)くる也。されば事かくる(欠くる)事なし。大事の用あらん時はこい(乞い)もすべし。いかにもおんびん(穏便)なる使にてこうべし。いたはる(労はる)事なければ、むつかしくなどおもひて(思ひて)、さやうの物をばつくらぬ也。さればまめやかなる用の時は事をかく(欠く)也。百性(百姓)をいたはれ。徳もありつみ(罪)もあさし。

極楽寺殿御消息 北条重時

074:所領などしる事あらんに、

一、所領などしる( *知行する,経営する)事あらんに、いかにわびしけ(侘しげ)なり共、はぢ(恥)あらん人( *身分ある人,武士)のきたり(来たり)たらん時は、これへ/\との給ふべし。さればとて、きびしくいふべからず。人のしな(品)によるべし。百性(百姓)なんどきたりたらん時は、便宜あらばさけ(酒)をものますべし。さればおなじくじ(公事)なれども、いさみいでくる也。又百性(百姓)の従者なればとて、いやしみしかる(叱る)べからずと申つくべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

073:人に物をぬすまるゝ事ありとも、

一、人に物をぬすまるゝ事ありとも、事かけ(欠け)ざらんには、あらはすべからず( *公にすべからず)。たちまち人の生涯をうしなはする事也。後世にゐんぐわ(因果)のがれがたし。

極楽寺殿御消息 北条重時

072:物ごいの家にきたりたらんには、

一、物ごい( *乞食)の家にきたり(来たり)たらんには、かた(形)のごとくなり共、いそぎて(急ぎて)とらす(取らす)べし。たとひとらせずとも、あはれみの心こと葉あるべし。いはんや物をこそとらせずとも、じやけん(邪険)のこと葉をいふべからず。佛の御わざなりとしるべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

071:そせう、

一、そせう(訴訟)、さならぬようをも( *訴えられた側の言い分にならないような言い分をも)きゝ(聞き)給ふべし。人のなげき(嘆き)をうけぬれば( *他人から訴えられれば)、わがうへに申事かなはぬなり( *自分に言い分があっても筋道だてて申し開きすることは難しいものだ)。よもかなはじとおもふそせう(訴訟)のかなはすは( *まさか通るはずが思っていた原告の訴えが通ってしまうことは)、いかばかり悲(かな)しかるべき。上へむけてけんじん(賢人)はなき也。ひが事あれば罪科あり。それにおそるゝものか。いやしき(賤しき)にたいしての賢人こそしかるべけれ。

極楽寺殿御消息 北条重時

070:ほかへゆきてわが家へかへらん時は、

一、ほかへゆきてわが家へかへらん時は、さきに人をつかはし、ひきめ(蟇目)をもいならし、こゑ(声)をもたかくすべし。我が身ひとりかへるとも、かくのごとし。此うちによき事おほくこもれり。

極楽寺殿御消息 北条重時

069:けいせいを、

一、けいせい(傾城)を、人のあまた(数多)よりあひて(寄合て)とめん時、見めもわろく(悪く)、いしやう(衣装)もなきをとむべし。よきをば人の心をかくる(懸る)也。わろきは人もすさめ( *嫌って避け)、又わが心もとゞまらぬ也。一夜の事はいかほどかあるべき。けいせゐ(傾城)もうれしみ(嬉しみ)おほかる(多かる)べし。

極楽寺殿御消息 北条重時

068:けいせ(い)をとめ、

一、けいせ(い)(傾城)をとめ( *招き)、又はしらびやうし(白拍子)などあらんに、みちのもの(道の者)なればとて、はうはすぎて(法は過て)なれ/\しきこと葉(言葉)をいふべからず。たゞふつう(普通)なるやうに、こと葉をもいひ、ふるまうべし。ことに過ぬれば、はぢ(恥)がましき事もあるべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

067:人の物をおふては、

一、人の物をおふては(追ふては *借財したならば)、いそぎ沙汰すべし(*返済すべし)。かりそめの事なりともさたすべし。もしかなはぬ物ならば、そのよし(由)をわび(詫び)なげくべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

066:奉公もなからん人のきびしくよくあたらんをば、

一、奉公もなからん人のきびしくよくあたらんをば(*主従関係もないのにやけに骨折りしてくれる人には)、しさい(子細)有と思給べし。たとひいふ(言ふ)事なしといふとも、しゞうのしりうど(始終の知人)にてはあるまじき也。そのゆへ(故)は、我はよくあたり申せども、させるしるし(印)もなければとて、事ならぬ事によりて、さだめてふしん(不審)いできぬ(出来ぬ)べし。

極楽寺殿御消息 北条重時