2008年9月30日火曜日

084:人の人をぬす人とさして申とも、

一、人の人をぬす(盗)人とさ(指)して申とも、雑(臓)物ろけん(露見)の儀なくば、ゆめ/\もち(用)ゐ給ふべからず。其人はたとひす(過)ごしぬとも、向後の人のにく(憎)からんずる時、空事(ソラゴト)を申つ(告)ぐる人有(ある)べし。

極楽寺殿御消息 北条重時

083:罪科しごくしたるぬす人をば、

一、罪科しごく(至極)したるぬす(盗)人をば、われ(我)はくぼう(公方)へそせう(訴訟)せざれども、仏神のばち(罰)をもかぶり(被り)、じめつ(自滅)する也。又はよその人のうたへ(訴へ)にてそん(損)する也。其時心ある人は、我が物をぬす(盗)まれて、申さゞりし事のやさしさよと、いよ/\おも(思)ふなり。

極楽寺殿御消息 北条重時

082:人の身にどんよくといふ心あり。

一、人の身にどんよく(貪欲)といふ心あり。その心をわがみ(我が身)にまかせ給ふべからず。彼心をごくそつ(獄卒)のつかひ(使)と思ひ給ふべし。かの心にさそわれ、地獄におつる也。どんよく(貪欲)の心にて、一紙半銭の物にても、ゆへ(故)なき物をとりぬれば、今生にては百ばい(倍)千ばゐ(倍)の物をうしなひ(失ひ)、後生にては地獄におつ(堕つ)べし。

極楽寺殿御消息 北条重時

081:酒の座敷にては、

一、酒の座敷にては、はるかのすへざ(末座)までも、つねにめ(目)をかけ、こと葉(言葉)をかけ給ふべし。おなじ酒なれ共、なさけ(情)をかけての(飲)ますれば、人のうれしくおもふ事也。殊/\(ことにことに)ひらう(疲労)の人には、なさけをかけてをく事なり。うれしさ限なきにより、人の用を大切にする也。

極楽寺殿御消息 北条重時

080:二人つれて道をゆかんに、

一、二人つれて道をゆかんに、たがひにした(下)の心はうちとけ給ふべからず。是はたび(旅)人とつれてゆかん時の事也。さればとて、き(気)もありがほ(顔)に見え給ふべからず。

極楽寺殿御消息 北条重時

079:いかなる事を人はいふとも、

一、いかなることを人はい(言)ふとも、物をろん(論)ずる事なかれ。詮なからん事一言もむやく(無益)也。よそにてき(聞)く人をこがま敷(おこがましく)思給也。返々さしもなき事あん(案)ずべからず。

極楽寺殿御消息 北条重時