2008年6月7日土曜日

049:女の心をもつべき事、

一、女の心をもつべき事、むかしより今にいたるまで、女はやさしく、事ののびやかなるをほん(本)とせり。よく/\心得給ふべし。物をねたむ事、是を返々心せばき(狭き)とす。一河のながれをくみ、袖のふりあはせだにも多生のちぎり也。一夜のかたらひなりとも、先世のちぎりふかゝるべし。いまをはじめとおもふべからず。又えん(縁)つきなば、いかばかり契ふかかれ(深かれ)と申候とも、かなふべからず。来るも去も因果なりと心えてあるべし。されば心にはんゑんとて、せう/\おもはずなる事あれども、心ざまのよきにははぢ、あしきにははなるゝ也。物に心得やさしければ、男もはづかしくおもひ、いとをしみふかし。昔今ひきかけおほし、よそにて見るもきくもやさしきことに申候也。佛神もあはれみをたれ、今生後生めでたきなり。

極楽寺殿御消息 北条重時

現代語意訳
一、女性はどんな心を持てばよいのか。昔から今に至るまで、女性はやさしく、何につけても柔軟に生まれついている。この美点を忘れないようにしなさい。何かと妬み深いのは、心の狭いことだから気をつけなさい。男女の仲は、ひとつの河の流れを汲み、袖ふれあうも多生の縁というだろう。たとえこの世で一夜だけ男女の仲になる場合でも、前世からの深い因縁があるものだ。初めて会ったなどと思うものではない。また因縁が尽きてしまえば、どんなに一緒にいたいと願っても、別れることになるのだ。出会いも別れも、因果のなせる業だと心得ておきなさい。心は諸々の縁によってあるものだから、自分の思うようにならぬものだが、しかし心がきれいな女性のことは男も大切に尊重するし、心が汚い女からは男も自ずと離れてゆくものだ。女がやさしく接してやれば、男もその女への愛情が深くなる。昔も今もどこに縁があるかわからないが、その女性の評判を左右するのは、やさしさだよ。心やさしい女性はホトケサマ、神様もお守りくださるので、この世でもあの世でも幸せになるのだよ。

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