2008年7月4日金曜日

057:子なきものゝ罪のふかきは、

一、子なきものゝ罪のふかきは、後生をとぶらはざる(弔はざる)事はさてをきぬ、としごろ(年頃)のすぐる(過る)まで、浮世にまじはる(交る)事のかなしさよと申候人のありし也。子なくしてゆづる(譲る)かたなしとて、かぎり(限り)ある死期をのぶ(延ぶ)べきか。もつところの財宝佛神にきしん(寄進)するとも、又人にたてまつるとも、あまる事ありがたし。かしこき(賢き)かほ(顔)にするとも、ゑんま(閻魔)の使のがれぬかぎりあるべし。とし(歳)すぎて後世をねがひたまはぬ人をば、神佛にくみ給ふなり。

極楽寺殿御消息 北条重時

現代語意訳
一、「子供がいない者の罪(前世の悪業)の深さと言えば、後生を弔ってくれるものが居ないことはさておき、跡取りがいないといつまでも隠居できずに、世間に立ち交わって働かないといけないのがつらいよ」と言った人がいる。子供がいなくて家を譲ろうにも譲れない、と言っても(家督を手放さなければその分)寿命が延びるわけじゃないだろ。自分には持っている財産を神様ホトケサマに寄進したり、他人に分け与えたりするほどの余裕はないよ、とわけ知り顔をしたって、閻魔の使いからは逃れられないぞ。歳老いても、来世の幸福を願わない(財産への執着を捨てない)人は、神様ホトケサマにも憎まれるよ。

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