2008年12月3日水曜日

098:舟はかぢといふ物をもつて、

一、舟はかぢといふ物をもつて、おそろしき浪をもしのぎ、あらき風をもふせぎ、大海をもわたる也。人間界の人は、正直の心をもちて、あぶなき世をも神仏のたすけわたし給ふ也。此心のよるところは、めいどのたびにむかはん時、しでの山の道をもつくるべし。三づの川のはしをもわたすべし。大かたをきど比(コロ)なきほどのたから也。よく/\心え給ふべし。正直の心はむよく也。むよくは後生のくすり也。返々夢の世のい(く)程ならぬことをくわんずべし。

しでの山あしき道にてなかりけり心の行てつくるとおもへば
三の河うれしき橋となりにけりかねて心のわたすと思へば
極楽へまいる道こそなかりけれ心のうちのすべぞなりけり
極楽の道のしるべとたづぬれば心の中の心なりけり

極楽寺殿御消息 北条重時

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