一、人の身にどんよく(貪欲)といふ心あり。その心をわがみ(我が身)にまかせ給ふべからず。彼心をごくそつ(獄卒)のつかひ(使)と思ひ給ふべし。かの心にさそわれ、地獄におつる也。どんよく(貪欲)の心にて、一紙半銭の物にても、ゆへ(故)なき物をとりぬれば、今生にては百ばい(倍)千ばゐ(倍)の物をうしなひ(失ひ)、後生にては地獄におつ(堕つ)べし。
極楽寺殿御消息 北条重時
鎌倉幕府の連署(執権の補佐)として活躍した北条重時(1198-1261)が出家後に子孫への教訓として記した書。自らの仏教信仰と、質実剛健にして自立心に富んだ東国武士の気風を反映し、正直・奉公・慈悲・謙譲・平等といった普遍的な人間のあり方を説いたその思想は、江戸時代まで広く国民各層の道徳意識に影響を与えた。
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