一、酒の座敷にては、はるかのすへざ(末座)までも、つねにめ(目)をかけ、こと葉(言葉)をかけ給ふべし。おなじ酒なれ共、なさけ(情)をかけての(飲)ますれば、人のうれしくおもふ事也。殊/\(ことにことに)ひらう(疲労)の人には、なさけをかけてをく事なり。うれしさ限なきにより、人の用を大切にする也。
極楽寺殿御消息 北条重時
鎌倉幕府の連署(執権の補佐)として活躍した北条重時(1198-1261)が出家後に子孫への教訓として記した書。自らの仏教信仰と、質実剛健にして自立心に富んだ東国武士の気風を反映し、正直・奉公・慈悲・謙譲・平等といった普遍的な人間のあり方を説いたその思想は、江戸時代まで広く国民各層の道徳意識に影響を与えた。
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